大人のピアノレッスン ~Mさんのお話し~

こんにちは♪

今日は一人のある男性、Mさんのとても感動するピアノレッスンのお話です。

 

ピアノのレッスンをお願いしたいのですが・・・

去年の暮も差し迫った12月のある日。
男性の方からのレッスンのお問い合わせの電話がありました。

「ピアノのレッスンをお願いしたいのですが。」

電話を受けた時には、私はてっきりお子さんのお父様からのお問い合わせだと思いました。

でも、お話を聞いているとそうではなくてレッスンを受けたいのは電話でお話をしているご本人様。

6月に結婚披露宴を控えていて、新婦様にサプライズでピアノの弾き語りをプレゼントしたいということでした。

新郎様が新婦様に向けてピアノの弾き語りのサプライズ♡
なんて素敵な、そしてなんて幸せな新婦様・・・

喜んでお引き受けしました。

 

Mさんの今までのピアノの経験は・・・

「演奏したい曲はもう決めています。この曲を演奏したいです。」

Mさんが演奏したいのは、ある歌手の方が歌うラブソング。

「ただ・・・僕はピアノを弾いたことがありません。 ”ねこふんじゃった” を小学生の頃、友達に遊びの中で教えてもらって弾いたことがあるくらいです。」

そう。
Mさんは、ピアノの経験が全くなかったのです。

そして、Mさんが演奏したいという曲は初心者向けのピアノ曲ではなく、いきなりのJポップ。
さらに、ピアノを弾くだけでも大変なのに歌いながらピアノを弾く ”弾き語り” をMさんは希望されている・・・

お問い合わせをいただいたのは12月で、結婚披露宴は6月。
半年の期間で完成させるとなると結構大変です。

そしてさらなる大きな壁。
楽器。
Mさんはピアノを持っていません。

それでも、一生に一度の結婚披露宴です。
今から思うと、ピアノの経験がないとか家にピアノがないなどということよりも、新婦様にサプライズをしたいというMさんの思いに答えて、これはなんとしてでも力になってあげたいという思いの方が強かったように思います。

 

そしてMさんとのレッスンが始まりました。

まずはMさんが演奏したいという曲の楽譜をあらかじめ私の方で用意し、レッスン初日の日がやってきました。
私が伴奏を弾き、Mさんにメロディーを歌ってもらい、Mさんと声の高さを相談しながら調性を決定、その他は披露宴当日に演奏することのできる持ち時間に合わせて、フル演奏するのか、繰り返しはどうするのかなど、曲の長さの打ち合わせをしてこの日のレッスンは終わりました。

Mさんとの打ち合わせで、前奏~歌~後奏と演奏することに決まり、さてどんな伴奏譜にしようか・・・

歌うことに集中できるよう、右手は3和音、左手は1音のベース音をつけてシンプルな伴奏形に、さらにMさんの歌うことのできる調性にして次回のレッスンで渡せるように譜面を作りかえました。

 

今回のレッスンの目的はただ1曲を弾けるようにすること

ピアノの基礎からじっくりとレッスンを続けていく。
Mさんの場合はそうではなくて、ただ1曲を決められた日までに弾けるようにすること。

2回目のレッスンでは私が作りかえた楽譜をお渡ししましたが、「5線に書かれた音符はゆっくりであれば読めるけれど・・・」と、Mさんは不安そうでした。

確かにその通りです。
小学校や中学校の音楽の時間に音符を読むことを教わったと思いますが、学校の授業で教わるのは本当に読み方だけです。
何か楽器を習ったりしていない限り、5線に書かれた音符がそんなにすらすらと読めるようになるものではありません。
何度も言いますが、今回のこのレッスンの目的はMさんが演奏したいこの1曲を結婚披露宴までに演奏できるようにすること。

そのためにはレッスンの仕方をいろいろと工夫する必要がある・・・
私も試行錯誤です(笑)

まず、2回目のレッスンでは演奏するとどんな感じになるのかを私が演奏して聴いていただき、そのあと楽譜に書いてある音を一緒に読みながら、鍵盤の位置を確認しながら音を出していくことをして、この日のレッスンは終わりました。

「楽譜に書いてある音を可能な範囲で良いのでお家で読んでみてください。」
前にも書きましたが、Mさんはピアノを持っていません。
なので、これくらいの課題しか出せません。

それから。
鍵盤で弾く時の和音のポジションを視覚からとらえることもできたらいいと思い、鍵盤の絵を書いて、和音をおさえる鍵盤に指番号を書き込んだものもお渡ししました。
もう一つ。
Mさんがお手本の動画が欲しいとおっしゃったので、手の動きが分かるようにものすごくゆっくりと私が演奏して、それをMさんご本人のスマホで撮影していただきました。

3回目のレッスン。
Mさんは私が言ったとおりに楽譜に書いてある音をがんばって読んできました。
でも、すらすらと読めるようになるのには時間がかかることからの焦りもあったのでしょう。
楽譜に書いてある音を読んで練習するよりも、鍵盤の絵を見ながらそれを真似て実際のピアノの鍵盤上に手を置いて音を出す方が練習がはかどる様子でした。

実際にピアノに触れて練習するのは私のところに来た時しかありません。
1回のレッスンは30分、当然のことですが朝から夜までMさんはお仕事をされているので、忙しい中都合をつけてレッスンに来られるのは月に2回程度。
月に1回しか来られないような時もありました。
なのでレッスンの時には本当に集中して頑張っている様子が毎回伝わってきました。

 

ピアノが家になくても・・・

しばらくの間は鍵盤に書いた絵を見ながら、絵と同じように鍵盤上に手を置き和音のポジションを覚える練習が続き、慣れてきたらベース音を入れるという練習が続きました。
そして、前奏と後奏は少しずつでも楽譜に書いてある音を読み、私が演奏した動画も併せて見るようなことをお家でされていたようです。

楽譜を見ながらという練習をしなくとも楽譜はとりあえず持っていてもらい、レッスンの時には楽譜は必ず譜面台に立てておくようにしました。
そうしてレッスンを重ねていくうちに、Mさんは少しづつ弾けるようになっていき、あまり見ることがなかった楽譜も見る余裕が少し出てきて、「今はここの部分を弾いている」ということも分かるようになってきました。

それでも、”楽譜を見ながら演奏する” ということが主ではなく、楽譜を見るのは何かの時の確認程度。
Mさんの中では、鍵盤の絵と動画が主だったのだと思います。

家では鍵盤の絵を見ながら音と指使いを想像し、動画を見ながら手の動きを覚え・・・
そんな風にされていたのでしょう。
そして、実際ピアノを触って弾く私とのレッスンではそれを思い出しながら弾いていたのだと思います。

ピアノを習っていれば家にピアノがあって、家で練習するのが通常です。
でもそうではなく、鍵盤に触ることなくイメージすることだけでここまでできるものなのか。
Mさん自身も集中してイメージを作って記憶することに努力を重ねられたことは言うまでもないことなのですが、少しずつでも曲が仕上がっていくにつれて驚きだったり、”絶対に完成させてみせる” という強い意気込みを感じたり、教える方の私が何か教えられているような感覚になったこともありました。

Mさんの話から少しそれますが、実はそういった生徒さんが何年か前にも一人いました。
中学生の男の子でした。
「ピアノの音色が大好きでピアノを弾いてみたい。でも家にはピアノがないのですが、それではだめですか?」というお問い合わせに、私は迷わず「大丈夫です!」とレッスンをお引き受けしました。
彼の場合はMさんのように期限はなく、ずっと続けてきたいということだったので、基礎である楽譜を読むことから始め、家でピアノを練習することができないのでとにかく楽譜を見ながらイメージする課題を毎週出し、私とのレッスンでは一緒にピアノの練習をするといったスタイルのレッスンです。
中学2年、3年と2年間のレッスンでしたが、彼には何曲かレパートリーができました。

きれいな音色に触れてピアノを楽しむことがレッスンに来た時にしかできない彼を見ていると、少し胸が締めつけられるような思いになる時もありました。

でも、「ピアノが家にないとピアノを習うことはできないかも」と、ピアノのレッスンに通うことを半分あきらめていた彼に、実際にピアノに触れてピアノの音色の美しさを味わってもらうことができて良かったと思うと同時に、ピアノがなくてもここまで弾けるようになったということに喜びも感じました。

 

結婚披露宴本番までの約1か月間から当日まで

結婚披露宴まで約1か月くらいの頃。
弾き語りをしながら始めから最後まで演奏することができるようになったMさん。
でも、間違えずに最後まで演奏するというのはなかなか難しいことです。
演奏中に何か勘違いをしてしまったり、指が思うように動いてくれなかったり・・・
少し焦りが見えるようでした。

でも、焦りは禁物です。
落ち着いて弾くことを心掛け、間違えやすいところを集中的に練習したり、指が動きにくいところの部分練習だったり、練習内容も本格的になってきました。

そして、この頃は結婚披露宴をする会場が空いているときには、会場のピアノで練習をさせてもらうことができたようです。
忙しい毎日の中、可能な限り結婚披露宴会場のピアノを借りての練習をし、私のところにレッスンに来るのも週1、多くて週2くらいのペースで通われ、結婚披露宴当日1週間前くらいにはMさんの思い描いていた弾き語りは見事に完成しました。

しかも暗譜での演奏です。
そうです、Mさんは楽譜を頼るよりも鍵盤を書いた絵と動画で練習することが主でした。
なので、全部覚えきってしまったのです。

本当によくがんばったと思います。

結婚披露宴当日は午後からでしたが、当日の朝早くにリハーサルとして最後のレッスンにお見えになりました。
もう完璧な演奏です。
そうそう、言い忘れたのですがMさんは歌がとてもお上手です。

そうして、約半年にわたってのMさんとのピアノのレッスンは終了しました。
Mさんの当日の演奏はどうだったのか・・・

気になりますよね。

後日、お見えになって結婚披露宴当日の動画を見せてくださいました。
それは少しも動じることなく堂々とした演奏で、今までの演奏の中で一番素敵な演奏でした。
この動画を見た時には私もちょっと込み上げてくるものがありました。

「本当にありがとうございました。」
Mさんは深々と頭を下げられたのですが・・・

「感動をありがとうございました。」
私の方こそ、そんな気持ちでいっぱいになりました。

Mさん、感動をありがとうございます。

そして
いつまでもお幸せに(^v^)

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